発掘で見つかった地震痕跡が語る古の大災害~地震考古学が明かす日本列島の地震史~

自然災害を考える

この記事は広告を使用しています

こんにちは!SONAEAREBAです。

私たちが住む日本列島は、
世界有数の地震国として知られていますが、
実は考古学の発掘現場から過去の地震の
痕跡が数多く発見されていることを
ご存知でしょうか。

今回は、「地震考古学」という
興味深い研究分野を通じて、
遺跡に刻まれた古の大地震の記録について
詳しくお話ししていきます。

地震考古学という新たな学問の誕生

地震考古学とは、
地震学と考古学を融合させた比較的新しい
学問分野で、1988年に産業技術総合研究所
寒川旭氏によって提唱されました。

この学問は、遺跡にある地震跡の調査と
歴史資料の地震に関する記述を照らし合わせる
ことで、発生年代の推定や将来の地震予測を行
うという画期的なアプローチを取っています。

寒川氏がこの分野を開拓する
きっかけとなったのは、大阪平野東部にある
古市古墳群の空中写真を目にし、
誉田山古墳の前方部にある大きな崩壊跡と、
その跡を通るように南北に走る断層崖の存在に
気がついたことでした。
調査の結果、マグニチュード7.1程度の
大地震によって、誉田山古墳が切断された
と判明したのです。

現在、全国で確認されている活断層は
約2000カ所に上り、寒川氏は約40カ所の
命名を手がけたという実績を持っています。

このような研究が進展した背景には、
日本列島という地震多発地域に数多くの
考古遺跡が点在し、豊富な歴史資料が
残されているという恵まれた環境があります。

参考リンク:
産経新聞WEB版 2020/2/21
「地層は語る」秀吉が驚愕した慶長伏見地震

最新データが明かす全国規模の地震痕跡分布

2025年5月30日、奈良文化財研究所から
驚くべき研究成果が発表されました。
「全国遺跡出土地震痕跡データセット」
の更新版が公開され、地震痕跡の検出地点数が
1月版の326地点から1620地点へと
大幅に増加したのです。

この大規模なデータ収集により、
これまで見えなかった地震痕跡の分布傾向が
明らかになりました:

  1. 地震痕跡の分布の約7割は、
    断層の分布と調和的である
  2. 地震痕跡の残り3割以上に、
    断層とは異なる分布傾向が見出された
  3. この地震痕跡の分布傾向は、
    「過去の地形」とその変遷に対して
    相関性が示唆される

特に興味深いのは、
大阪府八尾市付近での発見です。

この一帯は約5千年前に存在した河内湾
(後に河内湖)の南岸付近に当たることから、
過去の地形やその変遷が地面の脆さに
影響している可能性が指摘されています。

このデータセットの拡充により、
過去の地震によってより大きく揺れた場所が
「見える化」され、防災・減災への活用が
期待されています。

参考リンク:
奈良文化財研究所ホームページ
「全国遺跡出土地震痕跡データセット」の
更新公開と、見えてきた地震痕跡分布の特徴

液状化現象が語る古代の大災害

遺跡発掘現場で最も頻繁に発見される
地震痕跡は、液状化現象の痕跡です。

液状化とは、ゆるく堆積した砂の地盤に
強い地震動が加わることで、地層自体が
液体状になる現象のことです。

参考リンク:
地震調査研究推進本部事務局WEBサイト
「液状化現象」

縄文時代の地震痕跡発見

特に印象深く感じるのは、
京都府向日市の北仰西海道遺跡での発見です。

この遺跡では、
縄文時代から弥生時代にかけての集団墓地で、
砂の詰まった幅約1メートルの割れ目が
発見されました。

地下に堆積した砂層から砂が上昇して、
割れ目の内部を満たしていることが確認され、
これは激しい地震動による液状化現象の痕跡
だったのです。

興味深いことに、
縄文時代の古い墓は噴砂に引き裂かれて
いましたが、新しい墓は逆に噴砂の上から
設置されていました。

この発見により、地震の年代は縄文時代晩期、
考古学の編年では滋賀里Ⅲa期頃で、
今から3千年余り前と特定されました。

液状化痕跡の多様性

遺跡での液状化痕跡の観察により、
従来の理解を覆す発見も多数なされています。
例えば、一般に液状化しにくいと考えられ
ている砂礫層でも液状化現象が発生している
ことが、兵庫県神戸市玉津田中遺跡や
滋賀県針江浜遺跡で確認されています。

針江浜遺跡では、
最大径7センチメートルの礫を多く含む
砂礫層で液状化現象が発生し、
そこから上昇した噴砂が弥生時代中期中ごろの
地表面に広がる様子が観察されました。

砂脈内を上昇する過程で「級化」
呼ばれる現象が生じており、砂脈の下部は
大半が径4ミリメートル以上の礫、
中部は2ミリメートル程度の礫から粗粒砂、
上部はごくわずかに礫を含む粗粒砂、
そして地表に広がった噴砂は粗〜細粒砂と
なっています。

参考リンク:
京都大学防災研究所ホームページ
「遺跡で発掘された液状化跡」

歴史的大地震の痕跡を追う

慶長伏見地震の衝撃

1596年9月5日(文禄5年・慶長元年)に発生
した慶長伏見地震は、豊臣秀吉が隠居屋敷
として築いた伏見城の天守閣を崩れ落とさせた
巨大地震として知られています。

京都府京田辺市の門田遺跡では、
この地震が原因とみられる大規模な液状化跡が
発見されました。

砂が詰まった多数の地割れが遺跡を
引き裂くように走っており、確認できただけで
約20本の噴砂跡がありました。

産業技術総合研究所の寒川旭客員研究員は
「震度6強以上のすさまじい揺れだったはず」
と分析しています。

京都府南部では、
木津川河床遺跡、久御山町佐山遺跡、
八幡市内里八丁遺跡、同市門田遺跡などの
各遺跡で慶長伏見地震に関連する地震痕跡が
見つかっています。

これらの発見により、文献記録だけでは
把握しきれなかった地震の実態が明らかに
なりつつあります。

参考リンク:
四国新聞WEBサイト 2012/09/05
「慶長伏見地震の液状化跡か」

南海トラフ巨大地震の歴史

南海トラフから発生する巨大地震についても、
地震考古学的研究により
貴重な知見が得られています。

文字記録によると、
昭和(1944・1946年)、安政(1854年)、
宝永(1707年)、慶長(1605年)の4回は、
100〜150年の周期で東海地震と南海地震が
ほぼ同時、または2年以内に発生しています。

しかし、室町時代以前になると両地震発生の
間隔が大きく開き、1096年と1099年の一例を
除いて発生の同時性も認められなくなります。

これは古文書類が急減し、
本来存在したはずの巨大地震を史料として把握
していない可能性が強いことを示しています。

四国の吉野川下流域にある徳島県板野郡では、
南海地震の可能性が強い液状化跡が検出されて
おり、14世紀後半から16世紀初頭にかけて
使用された溝が埋積される過程での液状化跡
が認められています。

地震痕跡の調査方法と科学的意義

断層と地割れの調査

古墳・建物・柱穴などのさまざまな遺構に
断層が見つかった場合、断層面に直交するよう
にトレンチを開け、断層面の傾きから正断層か
逆断層かを判断します。

日本の活断層の大部分は逆断層なので、
逆断層を発見した場合は地震の可能性が強いと
考えられます。

地震発生の年代は、
断層のみられる土層の上に別の土層があれば、
上の土層の年代よりも前で、断層がある
土層の年代より後だと特定できます。

参考リンク:
Wikipedia「地震考古学」

液状化跡の詳細調査

液状化現象による噴砂の通り道(砂脈)は、
砂の詰まった細長い割れ目の形を
示しています。

砂脈が見つかると、
これに直交するトレンチを開けて、
液状化が発生した元の土層を確認します。

地震発生時に地表面に広がった噴砂は、
保存条件が良い場合、上の土層の中に
盛り上がった状態で残っています。

この場合は噴砂の覆う面が地震発生時の
地表面なので、時期の推定が正確にできます。

地震考古学が防災に果たす役割

地震発生パターンの解明

地震考古学の最大の意義は、
大地震が同じ場所である程度決まった間隔で
起こるという特性を活用して、将来の地震発生
時期の推定に役立てることです。

過去の複数回の発生時期がわかると、
その間隔もわかり、将来の地震発生時期の
推定が可能になります。

また、地質条件が同じであれば、
地震によって似通った地盤災害が
繰り返されるので、将来の地震による影響
も予測できます。

現代の防災への応用

遺跡での観察によって、
液状化現象などの地質現象がどのようなもので
あるのかが明らかになることもあります。

発掘現場であれば、地震跡を地下深く調査する
ことが可能であるからです。

2025年5月に公開された最新のデータセット
は、地震痕跡を単なる記載情報にとどめず、
具体的な過去の災害分布や関連する地質情報
との連携を可能にしています。

これにより、従来のデータベースを
質・量ともに超える防災資料として
活用できるようになりました。

技術革新が支える研究の進展

光ファイバーセンシング技術との連携

最新の研究では、
光ファイバーセンシング技術による
地盤振動観測との連携も進められています。

京都大学防災研究所との共同研究により、
地面の「揺れやすさ」の調査が行われており、
これまでの考古学的知見と現代の観測技術を
組み合わせた包括的な研究が展開されています。

データベースの充実化

「全国遺跡報告総覧」に掲載された
全発掘調査報告書131,972件の精査により、
1,670件の地震痕跡情報を掲載した
データセットが構築されました。

位置情報(緯度、経度)を含む
このデータセットは、CSV形式で情報を
提供することで、様々な地理的情報との
連携を可能にしています

地震考古学から見える未来への教訓

過去から学ぶ災害の実態

私がこれまでの研究を振り返って感じるのは、
地震考古学が単なる学術研究にとどまらず、
現代社会の防災・減災に直接貢献する
実用的な学問であるということです。

遺跡に刻まれた地震痕跡は、
文字記録では伝えきれない災害の実態を
生々しく物語っています。

例えば、液状化現象の痕跡から
震度5以上の強い揺れがあったことがわかり、
砂脈の分布から被害の範囲が推定できます。

また、過去の地形復元により、
現在では見えない地盤の弱点を
特定することも可能になります。

地域防災計画への反映

奈良文化財研究所の村田泰輔主任研究員は
「データセットが皆さんが住む土地の
地震痕跡を知る一助になればいい。
防災・減災のために役立ててほしい」

と述べています。

この言葉が示すように、
地震考古学の成果は学術界だけでなく、
地域住民の防災意識向上にも大きな意味を
持っています。

私たちが住む地域にどのような地震リスクが
潜んでいるのか、それを知ることは
効果的な防災対策を立てる上で不可欠です。

遺跡から発見される地震痕跡は、
その土地の「地震履歴書」とも言える
貴重な情報源なのです。

参考リンク:
yahooニュース 産経新聞 5/29(木)
発掘で見つかった地震痕跡、断層付近以外
でも集中 奈文研が公開データで確認

まとめ:地中に眠る災害の記憶を読み解く

地震考古学という学問分野の発展により、
私たちは過去数千年にわたる日本列島の地震史
を詳細に把握できるようになりました。

縄文時代の液状化痕跡から慶長伏見地震の
被害実態まで、遺跡に刻まれた地震の記録は、
文献史料だけでは知り得ない貴重な情報を
提供してくれます。

2025年5月に公開された最新のデータセット
は、全国1620地点の地震痕跡を網羅し、
これまで見えなかった地震リスクの分布傾向を
明らかにしました。

地震痕跡の約7割が既知の断層付近に
分布する一方で、残り3割以上が過去の
地形変遷と関連する可能性が示唆されており、
新たな研究の展開が期待されます。

私たちが今できることは、
これらの科学的知見を防災・減災に
活かすことです。

自分が住む地域の地震履歴を知り、
過去の災害から学ぶことで、より効果的な
地震対策を講じることができるでしょう。

地震考古学は、過去と現在、
そして未来をつなぐ架け橋として、
日本列島に住む私たち全員にとって
貴重な知識と教訓を提供し続けています。

地中に眠る災害の記憶を読み解き、
それを現代の防災に活かしていくことが、
地震国日本に生きる私たちの責務と
言えるのではないでしょうか。

私はこれからも、
この興味深い研究分野の進展を見守り、
皆さんに最新の情報を
お届けしていきたいと思います。

SONAEAREBAとして、
常に防災への関心を持ち続け、
科学的知見に基づいた
正確な情報発信を心がけてまいります。


地方自治体避難所開設用パーテーション

ダンボールやテントではない「新しい空間」
「エアトーレ」は日本の避難所を変えます。

バックの中に、あるという「安心」を。