オランダ・ニュージーランド・アメリカに学ぶ「減災」戦略-2025年の気候変動時代を生き抜く

防災豆知識

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こんにちは!SONAEAREAです。

私は日々、
世界中の防災政策を調査しながら、
災害に強い社会づくりについて
考えています。

今回のテーマは
世界の防災政策に学ぶ
『減災』の考え方です。

気候変動が加速する現代において、
完全に災害を防ぐことは
難しくなっています。

だからこそ、
多くの先進国が採用している「減災」
いう考え方が重要になっているのです。

この記事では、国連が推進する
「仙台防災枠組2015-2030」を基軸に、
オランダ、ニュージーランド、アメリカ、
インドネシアなど、世界各国の先進的な
防災政策から学べることをお伝えします。

「減災」とは何か:日本の経験から世界へ

2011年の東日本大震災は、
日本の防災思想を大きく変えました。

この災害を経験した日本は、
翌2015年の第3回国連防災世界会議を
仙台で開催し、国際的な防災指針
「仙台防災枠組2015-2030」
を採択したのです。

参考リンク:
仙台市役所 ホームページ
「仙台防災枠組」推進に向けた取り組み

「減災」という考え方の核心は、
シンプルながら深い意味を持っています。

それは「災害そのものを完全には防ぐこと
はできないかもしれないが、その被害を最
小化することはできる」という認識です。

従来の防災対策は、堤防や防波堤などの
インフラ整備に重点を置いていました。

しかし、東日本大震災で想定を超える
津波が襲来したことで、この考え方に
限界があることが明らかになりました。

そこで日本が打ち出したのが
「ハード・ソフト施策の適切な組み合わ
せ」という新しいアプローチです。​

具体的には、堤防などの構造物(ハード)
だけに頼るのではなく、
早期警戒システム、避難訓練、防災教育、
そして正確で迅速な情報発信(ソフト)
を組み合わせることで、人命と地域を
守ろうとするものです。

世界が注目する「仙台防災枠組2015-2030」

2030年までの国際的な防災指針として
世界が取り組む「仙台防災枠組」には、
7つの具体的なグローバルターゲット
が設定されています。​

2030年までに達成すべき成果としては:

  • 災害時の死亡者数を大幅に削減する
  • 被災者数を大幅に削減する
  • 直接経済損失をGDP比で削減する
  • 重要インフラへの損害を大幅に減らす
  • 国家・地方レベルの防災戦略を有する
    国を増やす
  • 開発途上国への国際協力を強化する
  • 多くの人が早期警戒システムや災害
    リスク情報を利用できるようにする

これらの目標は単なる数値目標ではなく、
世界中の人々が「より安全で強靭な社会」を作るための共通言語として
機能しています。

現在、多くの国がこの枠組みに沿って
防災戦略を策定し、実行しているのです。

参考リンク:
国際連合情報センター
国連防災機関(UNDRR)神戸事務所​

オランダの治水戦略:「河川に余裕を持たせる」発想

国土の約1/4が海面より低いオランダは、
水害対策の先進国として知られています。

1953年の北海大洪水で2,000人以上の
犠牲者を出した経験から、オランダは
抜本的な治水政策へと転換しました。​

オランダの取り組みで特に注目すべきは
Room for the River
(河川に余裕を持たせる)
というプロジェクトです。

従来の治水対策では、
増水時に堤防で水をせき止めることに
重点を置いていました。

しかし、オランダが採用したのは、
河川周辺に水が流れ込むための空間を
意図的に確保するという逆転の発想です。​

この施策により、
洪水が発生しても河川の水位上昇を
抑制でき、結果として堤防への
負荷を軽減させることができます。

つまり、「水と共生する」という
減災の考え方を体現した対策なのです。

さらに注目すべきは、
オランダ政府が市民向けに提供する
浸水するの?(Overstroom ik?)
というアプリです。

住所を入力するだけで、
想定される最悪の洪水シナリオにおいて
自宅がどの程度浸水する可能性があるか、
また浸水を経験する確率はどのくらい
あるのかを知ることができます。​

これは気候変動適応の重要性を
市民レベルで共有する優れた例です。

防災は行政だけの責任ではなく、
市民が自分たちのリスクを理解し、
適応する必要があるという姿勢が
感じられます。

さらに、オランダは2050年までに
気候変動への耐性を持ち、水に関して
頑健な国へと進歩することを目指す
「デルタプログラム」も推進しており、
堤防や水門の大規模改修、
淡水供給の確保、地域の気候耐性強化に
取り組んでいます。​

ニュージーランドの多層的アプローチ:建築基準から教育まで

太平洋に位置するニュージーランドは、
地震、洪水、土砂崩れ、津波、火山活動
など、多様な自然災害の脅威に
さらされている国です。

同国の防災対策は
建築基準、緊急対応、教育の3本柱
で構成されています。​

ニュージーランドが採用している耐震基準
は、世界的に見ても最高レベルです。

1931年のホーキンガ地震による
甚大な被害をきっかけに、同国は高い
耐震基準の導入を決断しました。

その後、1965年、2004年と段階的に
基準を強化してきた結果、新築建物には
極めて高い耐震性能が求められるように
なったのです。​

同国の防災教育も充実しています。
学校では地震ドリルが定期的に行われ、
市民に対しても地震対策の啓発活動が
継続的に実施されています。

さらに、ニュージーランド政府は
災害情報を得るためのウェブサイトや
ラジオ局との連携体制を整備し、
緊急時の情報発信体制を
強化しているのです。​

近年、ニュージーランドでは
2016年のカイコウラ地震や
2023年のサイクロン「ガブリエル」
による洪水・土砂崩れなど、
自然災害が多発しており、
市民向けの防災備蓄リストや
ハザードマップの整備も
推進されています。​

アメリカ:ハリケーン・カトリナから学んだシステム全体の再構築

2005年8月にルイジアナ州を襲った
ハリケーン・カトリナは、1,500人以上の
犠牲者を出し、米国史上最大級の自然災害
となりました。

しかし、この悲劇がもたらしたものは、
アメリカの防災システムの抜本的な改革
でもあったのです。​

カトリナの直後、米国陸軍工兵隊は
タスクフォース「Guardian」
立ち上げ、50以上の機関から150人以上の
専門家を動員して、ニューオーリンズの
洪水防御システムの問題を
科学的に分析しました。

その結果、
基礎から壊れた堤防だけでなく、
越流による浸食も洪水被害を
拡大させていることが判明したのです。​

この教訓から、米国は新しい
ハリケーン・暴風雨被害リスク削減
システム(HSDRS)」を構築しました。

重要なのは、単に堤防を嵩上げして
修復するのではなく、
152通りの異なるハリケーンシナリオを
想定し、それぞれに対応できるシステムを
設計したという点です。​

さらに、排水ポンプ場の管理体制も
改革されました。

カトリナ時には、操作員の避難、
電源の喪失、冷却水の不足などにより、
ポンプ場が十分に機能しませんでした。

この教訓から、陸軍工兵隊が主要電源を
水から守り、バックアップ電源を備えて、
管理要員が安全に操作できる
環境を整備したのです。​

アメリカの対応は「予測に基づいた適応
という減災の考え方を完璧に実行した
例といえます。

インドネシア:多部門連携による総合的防災体制の構築

インドネシアは
地震、津波、火山噴火、洪水など、
アジア有数の自然災害多発国です。

同国の防災担当機関である
国家防災庁(BNPB)は、2025年度に
1兆8,870億ルピア(約170億円)の予算
を計上し、防災強化に注力しています。​

特に注目すべきは、
インドネシアが「マルチセクター
(多部門)による災害対応ネットワーク
の構築に取り組んでいる点です。

政府機関だけでなく、
民間企業や地域コミュニティ、
国際機関が連携し、災害リスクを
削減しようとしているのです。​

同国では地域防災局(BPBD)が各地域に
配置され、早期警報システムの構築、
ハザードマップの作成、災害に強い村
プログラムの推進などを実施しています。

さらに、インドネシアは日本の技術協力を
受けながら、地震・津波観測及び情報発信
能力の向上に取り組んでいます。​

気候変動時代の新しい防災パラダイム

2025年3月に日本の文部科学省と気象庁は
日本の気候変動2025
を公表しました。

この報告書によれば、
世界の極端な高温(熱波を含む)は
頻度だけでなく強度が増加しており、
大雨、台風、熱波などの
極端気象現象がさらに激化する可能性が
指摘されています。

参考リンク:
気象庁ホームページ
『日本の気候変動2025』

こうした状況下において、
従来の「標準的な災害」を想定した
防災計画では対応が難しくなっています。

そこで各国が採用しているのが
気候変動を踏まえた適応的防災戦略
です。​

これは単に防災インフラを強化する
だけでなく、気候変動の影響を先読みし、
社会全体のシステムを柔軟に変えていく
必要があるという認識に基づいています。

環境省が作成した
「気候変動×防災実践マニュアル」
においても、気候変動リスクを踏まえた
抜本的な防災・減災対策の必要性が
強調されています。

参考リンク:
環境省ホームページ
​できることから始める「気候変動×防災」
実践マニュアル -地域における気候変動
リスクを踏まえた防災・減災対策のために

私たちが実践できる「減災」

記事をお読みになって、皆さんは
「防災・減災は行政や大規模プロジェクト
の問題では?」
と感じるかもしれません。

しかし、仙台防災枠組の重要な側面は、
すべてのステークホルダーが
関わることが必要」という認識なのです。​

個人レベルで
実践できる減災対策としては:

  • ハザードマップの確認:
    自分が暮らす地域にどのような
    災害リスクがあるのかを把握する
  • 防災備蓄:
    最低3日分の食料、水、医薬品などを
    準備する
  • 避難経路の確認:
    いざという時の避難場所や経路を
    家族で話し合う
  • 防災訓練への参加:
    地域の防災訓練に積極的に参加し、
    実際の対応を体験する
  • 防災情報のアクセス:
    気象情報や災害情報を日頃から
    チェックする習慣をつける

これらは一見、地味な取り組みに
見えるかもしれません。

しかし、各自が自分のリスクを理解し、
準備することが、結果として地域全体の
強靭性(レジリエンス)を高める
のです。

世界から学び、地域で実践する

世界の防災政策から学べることは、
災害と完全に戦う」のではなく、
災害と共生し、被害を最小化する
ことの大切さです。

オランダの「河川に余裕を持たせる」
という発想、
ニュージーランドの「多層的防御」、
アメリカの「シナリオベースの計画」、
インドネシアの「多部門連携」

これらはすべて、
「想定を超える
災害にも対応できるシステム」

を目指しています。

現在、世界は仙台防災枠組の折り返し
地点を越えようとしています。

2025年は、
各国がこれまでの取り組みを評価し、
新たな戦略を策定する年になります。​

皆さんが暮らす地域でも、
こうした国際的な防災哲学が
少しずつ浸透し始めています。

自分たちの地域にどのような防災政策が
あるのか、どのような取り組みが
行われているのかに関心を持つことから、
「減災社会」への歩みが始まるのです。

私たちSONAEAREAは、
今後も世界の先進的な防災事例を
お伝えし、皆さんが一歩先を行く
防災対策を実践できるよう
お手伝いしたいと考えています。

次回のテーマもお楽しみに。
皆さんの「もしもに備える」
を応援しています。


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